曼珠沙華





竜崎と秋の河原を散策する。
川に沿って小高く丘が続いている。
そこにちらほらと、赤い塊が見え隠れする。
「ああ、彼岸花だ、竜崎」
「そうですね」
「綺麗だね」
「ふふ、そうですね」
「なんで彼岸花って言うか知ってる?お彼岸の頃に咲くから……だったと思うよ」
竜崎は少し黙りこんでから
「知っていますよ。曼珠沙華とも言いますよね。毒があるんですよね」
「そうだね、毒があるね」
そんなことをつぶやいた。
僕らは惹かれるように彼岸花の花群に近づき、側で立ち尽くした。
血の色の様に赤い、六花弁。
あちらの世界を思わせる、不吉なまでの美しい赤。
群生していると、なんだかこのまま吸い込まれて、彼岸に連れて行ってしまわれそうだ。
「学名リコリスラディアタ。ヒガンバナ科ヒガンバナ属の多年草」
そう言って竜崎は笑った。
「なんだ。やっぱりお前、何でも知っているんだな」
「そうでもありません。今まで思い出しませんでしたから」
風が吹く。花がゆらゆらと揺れ、赤い波のようにさざめいた。
「ねえ、月くん」
「ん?」
酷く静かな声で呼びかけられる。
竜崎の方を振り向くと、いつの間にか一輪の彼岸花がその手に握られていた。
「これを食べれば私は死にますかね?」
ふふ、と笑う竜崎。その白い肌と赤が不吉な予感を僕にもたらす。
「おい、やめてくれよ」
「試してみますか?」
そっと茎を唇に近づけるので、慌てて腕を抑えこんだ。
「やめてくれよ」
「……冗談です」
それから、ちょっと空を仰ぎ、竜崎は僕にその花を手渡した。
「ん?何」
首をかしげた僕に、竜崎は言う。
「彼岸花を花言葉を知っていますか」
「……いや?」
薄く笑いながら、様々あるのですが、と前置いて、
「想うは貴方一人」
とつぶやいた。僕は目を見開いて竜崎を凝視する。
「再会、そして……」
小さく、転生、と言葉を紡ぐ。

ざあっと風が吹く。河原に強い突風。思わず目を閉じる。
顔を腕で庇って、風がやんだので腕をおろしてみる。
相変わらず足元には赤い赤い彼岸花、曼珠沙華。その群生の向こうに、何故か竜崎が立っていた。
「おい、なんでそっちに居るんだよ」
笑って連れ戻そうとしたら、足元に急に川が流れだした。
「?」
「ねえ、月くん。覚えていませんか」
竜崎は相変わらず微笑んでいる。
「――――何を?」
「覚えていませんか?」
そう言って笑みを深くする。
風に煽られた髪を少し抑え、竜崎は空を向く。
「私と貴方の間には川がある」
「……?」
呆然とする僕に続ける。
「もう、私達、お別れしたんですよ」
「!」
そう言われて一気に蘇る様々。腕の中の竜崎。冷たくなる頬。ああ、もう逢えない、と密かに泣いた夜。後悔していないはずなのに、と、竜崎を想って自らを抱きしめたあの日々を。
「曼珠沙華、転生。……また会えるのを楽しみにしていますよ」
竜崎がそう言うとまた風が強く吹く。今度こそ見失わない様に、目を閉じないように。

けれど、花の群れの向こう、竜崎の影は消えていた。
「竜崎!竜崎……!」
僕は河原で一人、竜崎の名を叫ぶ。

そこで目が覚めた。
手の中に一輪、彼岸花が残っていた。




end