夏の虫退治





「月くん、この緑の渦巻はなんですか?」
たまたまネットで見つけたらしい画像を竜崎が僕にみせる。
「ああ、それは蚊取り線香。焚いとくと蚊が寄ってこなんだよ」
僕が答えるとなんだか目が輝いた。
「なんでですか?」
「除虫菊が入っててね。殺虫剤なわけ」
ふうん、と竜崎は言う。
「使ってみたいです」
「結構煙いよ?」
「使ってみたいです」
言い出すと押し通すんだから仕方ない。僕は父さんに言って、家から使いかけの蚊取り線香の缶を持ってきてもらった。
だからって此処の何処で焚こうってんだ。
「屋上のヘリポート、あるでしょう?あそこで焚きましょう」
竜崎は意気揚々と蚊取り線香を持って屋上にあがる。
折角だから、と僕はオーソドックスな豚の香炉を持ってきてやった。
竜崎のテンションはなんだか微妙に上がっている。
「その豚の中に吊るすんですか?」
「まぁ、そうだね」
正確には刺すんだけどね。
ヘリポートの何処でそんな事するんだ、と思っていたら、どういうわけか縁側みたいな木のベンチが用意されていた。またワタリさんにワガママ言ったに違いない。
木のベンチの上には皿が用意されており、そこに綺麗に切ったスイカが置いてあった。なんだか色々調べたのかな。それっぽい雰囲気になっていて思わず笑いそうになった。
「でもさ、ここ二十三階だろ?蚊なんて上がってこないぞ」
「奴らは狡猾です。エレベーターに紛れ込んで上がってくるかも……」
「いや、あのセキュリティ通り越してエレベーターまで辿り着くの困難だと思うけど……」
言ったら竜崎は少しムッとした顔をした。
「わかったわかった。蚊を退治しような?」
僕はごきげんをとると蚊取り線香の先端に火をつける。竜崎は煙いと文句を言いながらも、くるくると落ちていく灰に目を輝かせた。
「どう?満足した?」
「はい。でも肝心の蚊はやはり居ませんね」
しょんぼりしているから、僕は咄嗟に抱きしめて首筋をちゅうと吸ってやる。
「ここに大きな蚊ならいるけど?」
悪戯っぽく笑うと竜崎は首を押さえて、そのようですね、と笑った。
キスして戯れて、それから二人でスイカを食べて、蚊取り線香を満喫(という言い方は妙だけれども)して、本部に戻る。すっかり煙くなってしまった。

本部に戻ると「蚊はいましたか、竜崎」なんてからかった様な声が飛んできた。
「はぁ、まぁ」
竜崎は首筋を押さえる。
「あれっ?刺されてるじゃないですか!」
驚く松田さんに、竜崎はニンマリした顔で、
「でっかい蚊が一匹だけ居たんですよ」
なんて答える。
隣で思わずクスクスと笑ってしまった。
まあ、竜崎が望むなら、何時だってでっかい蚊になってやるよ。
夏はまだまだ続くんだから。
今度は花火でも持って、竜崎と屋上で遊んでみるのもいいかもしれない。
勿論、豚の蚊取り線香を持って、ね?




end