ミサにお任せ!4
『竜崎、いつもお前その格好なの?』
『え、あ、はい。同じ物を何着も持ってますが……』
『ふうん……偶には違う格好もしてみないの?』
『嫌いですか?この格好』
『嫌いじゃないけど……違う格好も見てみたいな』
そんな会話があった。つい最近の事だ。
自分ではこの格好しかしたことが無いし、似合う似合わないも考えたことが無い。
だからそんなに気にしたことも無かったのだが、月が他の格好も見てみたい、と言って混乱した。
だって何を着ればいいのだ?よくわからない。
スーツは嫌いだし、だからと言って下着姿はもう試してみて月の好反応は見ている。だからと言ってずっと下着姿で居るわけにも行かない。(その時の下着は、黒で両サイドにリボンが付いているというワタリの力作だ)
何かいいものはないだろうか……と、こういうことには絶対に頼りになる海砂に連絡を取った。勿論月の仮眠中に。
ぴょこっと顔をだした海砂の目は輝いている。このパターンは必ず恋バナだともう見ぬかれているのだろう。
「で、今度の相談はなになに?」
にこにこ笑う海砂は本当に心強い。
「あの……例の彼女に、他の格好も見てみたい……といわれたのですが……」
言うやいなや、海砂はあーと言って頷いた。なんだ?そんなに私の格好は変なのだろうか?
「たしかにずっと同じ格好だもんねえ、竜崎さん。違うの見てみたいっていうのは解るかなぁ」
そういうものなのか……。
「でも、自分に似合う服がさっぱりわからないんです」
「そうだよねえ、難しいよねえ、竜崎さんの場合。イメージしにくいもん」
最初から絶望的な事を言われる。そこを何とかしてイメージを変えたいのではないか。
「どうかご意見お願いします」
私が懇願すると、海砂は満更でもない顔をして、
「じゃあさ、白いトップスはイメージのままにして、それをカッターシャツにするの」
「ふむふむ」
「んーと、それから……ベストとかいいかもね、ちょっとおしゃれな感じの」
「ベスト……ですか」
「そうそう、スーツとか似合わなさそうだし」
……私だってスーツは一応持っているのだが(どうしても使わなければいけないとき様にワタリが用意した)あれは大嫌いだ。
「ベストならボタン外しちゃえば楽でしょ?竜崎さん締め付けるのとか嫌いそうだし」
「そうですね」
「それから……したはがらっとイメージ変えてベージュのパンツとかにして……白い革靴、とかどう?」
「革靴……私裸足がいいです」
「だからそれがいけないのよ!」
ぐうの音も出ない。そんな不可思議な格好をしたことがない。
「そうだね、パンツは七分丈、とかどう?」
海砂のアドバイスは間違いない。今までで最終的に失敗したことなど無いからだ。
「わ、分かりました。やってみます」
「そしたら髪はそのままでも大丈夫だと思うよ!」
力強い海砂の言葉に後押しされる。なんたって彼女はモデルなのだから。
そうして揃えた流行りの格好。
私は四苦八苦して着替えた。少し崩す程度がイイ、と海砂は言っていたので、きちんと着られなくても大丈夫だろう。
月が朝寝ている間に一旦手錠を外していそいそと着替える。これで月は喜んでくれるだろうか……?
「ん……おはよう……」
「お、おはようございます、月くん」
目をこすりながら裸の月が目を醒ます。ドキドキしながら月の反応を待つ。すると……
「……竜崎、その格好どうしたの?」
驚いた様子で私を見る。成功か?失敗か……?
「月くんが違う格好を見たいと言っていたので、が、頑張ってみたんですが」
すると月は、ははっと笑って
「うん、凄くかっこいいよ。なんていうか流行りにノッた感じ。結構化けるね、竜崎は」
成功か?
「でも僕は……それなら普段の竜崎の方がいいな」
「………………」
――――失敗だ。
私はがっくり肩を落とす。
「普段のに着替えます……」
しょんぼりした私の肩を月が叩く。
「かっこいいよ、竜崎。頑張ってくれてありがとう。ただね、僕は可愛いほうが好きなんだ。今度もっとかわいい格好も見せてよ」
「え、あ、はい」
頑張りを褒めてもらって嬉しくなった。
でも。
「あの、かわいい格好……とは?」
思わず聞いてみる。
「うーん……猫耳尻尾とか?」
にんまりと笑う月。それは夜の話じゃないか。
「〜〜〜!!!!」
そういうのじゃない!!!!!
「月くんのバカ!」
と私は思わず月を蹴り飛ばしてしまった。
今度は海砂に報告だ。いつもの流れだ。
「どうだった?彼女喜んでくれた?」
海砂は相変わらず目をきらきらさせている。こうやってみると海砂はいつも可愛らしい格好をしていて、色々気遣っているんだなぁと心底思う。それにつけ私ときたら……。
はぁ、と溜息吐いてから、
「失敗でした」
そう告げると、
「えーーーーっ!なんで?かっこ良くキマったでしょ?!」
「はい……でも」
「でも?」
海砂が身を乗り出すので思わず後退する。
「か、彼女が、もっと可愛いほうが好きだって」
「そうなんだ?」
「はい」
海砂は眉間にちょっと皺を寄せてから、
「可愛い格好……可愛い格好……」
とつぶやきだした。海砂なりに一生懸命考えてくれている。私は感激した。
「じゃあ、うーん、夏だし、浴衣にして一緒に花火とか、どう?」
にこっと笑う海砂は可愛らしい。
「それ、いいかもしれません!」
それだ!と私は思った。チラリズムでもすればきっとあの月の事、喜んでくれるに違いない。
「可愛いのがいいなら、ちょっとこう……」
海砂との作戦会議が始まった。月はアイマスクして仮眠をとっている。スリリングだが、この作戦会議、私は結構お気に入りだ。
そうしてワタリに浴衣を頼んだ。
男性用だけれど、少し落ち着いた中にも華やかさのある柄で白、帯はシックな紺色。下駄もきちんと用意して、帯に合わせた紺色のものを選んだ。
敢えてちょっと着崩して……。
折角だから、月にも浴衣を用意した。月には私と対称的な紺色の浴衣に渋目の焦げ茶の帯、下駄は私とお揃いにした。
ここまでくれば完璧だ。
浴衣を揃えたその日、天気は晴れ、とても綺麗な空だった。
打ち上げ花火はその日はやっていないけれど、私は敢えて可愛らしい市販の花火セットを取り寄せた。バケツとロウソク。屋上のヘリポートで一緒に花火をしたいと思ったのだ。
「月くん、これ……」
月に出来上がったばかりの浴衣を手渡す。
「え、浴衣?どうしたのこれ」
「ワタリに言って作って貰いました」
「いい色だね、凄く素敵だ」
感心する月に、今度は私の浴衣を見せる。
「私のはこれなんです……似合うでしょうか?」
月は目を輝かせた。
「ああ、きっと素敵だ。竜崎の浴衣姿なんて……なんだかとってもいいと思う」
大成功だ。
「あの……でも、着方がわからないんです」
「僕で良ければ着付けするよ?」
流石月、何でも出来る。
いそいそと二人で浴衣に着替える。ばっちり決まった二人の浴衣姿。鏡に映った私達は、恋人同士そのものだった。
「可愛い、竜崎」
ぎゅっと抱きしめられる。嬉しくて思わずキスをした。
それからそっと花火セットを持ち出す。
「……これ……」
「花火か!いいね、一緒にやろうか」
「はい!」
そうしてワタリにかき氷やらわたあめやら作ってもらって小さなお祭り気分になった。
屋上のヘリポートで、二人はしゃぎながら花火セットに次々火を付けていく。
色とりどりの火花に照らされた月はとても綺麗だった。私は嬉しくて嬉しくて、月と一緒に並んで最後に線香花火で楽しんだ。
「……綺麗だったよ、竜崎」
意外な言葉にびっくりする。
「月くんこそ、とっても綺麗でした」
二人で高揚した気分のまま、ヘリポートで深いキスをする。
月がそっとのしかかって来たので、私はされるがままにヘリポートで事に及んだ。
着崩した浴衣、着衣のままでするのは静かで居て幸福な気分をもたらした。
ああ、海砂に感謝しなくては。
後日、また海砂に報告だ。
「どうだった?」
「はい、大成功でした」
にこ、と笑うと海砂が意外な顔をする。
「……竜崎さん、いつも笑ってるといいと思うよ」
ぼそっと言った海砂の言葉、なんだか本当に私を思っていてくれているようで嬉しかった。
だから後ろ手に持っていた風呂敷をそっと差し出した。
「お礼です」
「え?なに?」
「開けてみてください」
海砂は不思議そうな顔をして包を開ける。そしてキャっと可愛らしい声をだした。
「これ、これ……私の分?」
海砂は感激した様に私の方を見返す。
「はい、お礼です」
「可愛い!ありがとう、竜崎さん!」
それは海砂用の浴衣。偶にはゴスロリを捨てて、可愛らしい藍染めの浴衣もいいだろう。
キャッキャと喜ぶ海砂の顔がなんだか嬉しい。
次は三人で花火をしたいな、とチラと思った。
今回も大成功。
やっぱり私の恋のアドバイザーには海砂しか居ない。
まさに今回も、ミサにお任せ!だ。
end