光の中へ





真っ暗だ。上も下も、右も左も解らない。
なにやら記憶がはっきりしない。けれど、最期の瞬間だけは覚えている。
僕は死んだ。
何も無い。何も無い。
ああ、そうか。此処が。……此処が『無』か。リュークの言った、デスノートを使った者が辿り着く先。此処がそうか。
意識はあるのか。僕の身体はここにあるのか。
手と思われるものを意識して、身体を弄ってみる。あるような、無いような気がする。
僕の意識がここにあるのだとしたら……いや、思考している。だから僕はきっと『在る』のだろう。
真っ暗だ。何も見えない。このままここで思考し続ける。ならばある意味地獄なのかもしれない。死神と関わった事で生まれた、地獄なのだろう。

Lは?Lはどうしたのだろう。
あいつはデスノートを使わなかった。だったら天国か地獄に行ったのだろう。
なんとなく、天国に行っていればいいと思う。僕を無という地獄に叩き落としたのだから、あいつは天国に居て、そこから僕を見て嗤っていればいいと思う。なんでだか解らないけれどそう思った。

足であると思われるものを前に出す。一歩。一歩。また一歩。
すると、足元で、ぶにゃ、という変な感触があった。……ここは無ではないのか。他の物が存在する……?
妙な感触が気になって、僕は屈んでそれに触ってみた。ふよふよとしていて中にとろりとしたものが入っている。踏んでしまった所為か、何かから中身がはみ出してしまったようだ。
……甘い香りがする。バニラの香り。
踏んでしまったにもかかわらず、好奇心でそのはみ出した部分を指に掬って舐めてみる。酷く甘かった。
「シュークリームだ」
発音した。頭の中で響いただけかもしれない。でも声が出たような気がした。
シュークリームを片手にまた一歩前に踏み出す。また一歩、また一歩。
すると今度はコツンと硬いものに当たる。足元を弄って確かめてみる。
棒状のものの上に丸くて薄い物が付いている。これも舐めてみた。
「……キャンディだ」
そうして一歩一歩進んでいくうちに、僕の手は菓子でいっぱいになった。

もうこれ以上持てない。けれど足を踏み出した。今度はえらく大きい物にごつりとぶつかった。
なんだこれは。こんなに甘い塊が在るのだろうか。だとしたらとても抱えられない。
暫く逡巡していたら、手の中から甘い物が一つ、一つ、消えていった。消えた先にはさっきの大きな塊がある。
ぼんやり見てみたら、それは菓子が消えると共にうっすらと光を放ち始めた。
「ありがとうございます、月くん。丁度お腹が空いていたんです」
『それ』はそう言った。
ふと左手が重くなる。じゃら、と音がした。
「やっと逮捕できました。これでキラ事件は解決です」
塊はそう笑った。手錠だ。長い鎖の付いた、これはあの時の手錠に間違いない。
光が段々強くなる。ぼんやりとしたそれがはっきりと見えてくる。
ひょろりとした、Tシャツジーパンの男がよく見える。
「……竜崎!」
「お久しぶりです、月くん」
そこには竜崎が居た。憎くて、殺したくて、誰よりも愛した竜崎が。
にた、と笑う顔は相変わらず憎たらしい。
「ほら、見えますか月くん。私の光であなたの形がはっきりしてきました」
言われて視線を移せばそこには僕の姿があった。僕は在った。竜崎の光で。
「さあ、行きましょう。捕まえたからには放って行くわけにはいきません。なんたってキラですから」
竜崎は笑って僕の身体を抱きしめる。
光の粒が僕に混じって、そこから溶け出していく感覚がした。
昇華する、昇華する。

こいつは天国に居ればいいと思った。
でも何よりも、側に居て欲しかった。
僕と竜崎が混じりあって対の光と影になる。混じりあう、溶ける、蒸発する。昇華する。
最後の最後に覚えた感覚は、甘ったるい暖かく柔らかい唇の感触だった。

月、命日に寄す。




end