オム記念日






ここのところ竜崎はオムライスが気に入っているらしい。
珍しい事もあるものだ。普通の食事をするなんて。……でも、月くんのオムライスなら美味しく食べられます、なんて言われて作らない馬鹿はいない。
少しずつアレンジを加えて、卵はたっぷりの砂糖を入れ、竜崎の気を引こうと躍起になっている自分が居てなんだか情けない。
オムライス、といえばケチャップだ。
ケチャップの分量で味が決まると入っても過言ではない。
けれど、オムライスのケチャップは特別……とでもいうか、なにかメッセージを書きたくなるというのが心情だ。
いつもここで迷う。最初は普通にかけて出した。
なんだかうずうずした。あそこに僕の想いの丈を、なんてくだらない妄想に悶えているからだ。愛している、なんてメッセージを書いてみたいんだけど。
竜崎はまだ、なんていうか付き合い始めたばかりで、そんな恥ずかしいことをさらっと流せる間柄でもなくて。
ケチャップ片手にううん、と唸っていたら、後ろからひょっこりと竜崎が現れた。
「月くん、なにしてるんです?私お腹が空きました」
「あ、うん。ええと」
「ケチャップに何かあるんです?」
勝手に僕の手からひったくろうとして、慌てて取り戻した。竜崎は少し膨れた。
「なんだってケチャップにそんなに固執するんです」
「馬鹿言え!昔からオムライスのケチャップは伝言なんだよ!」
「伝言……ですか」
「そうだよ、僕の意志を伝えるための……」
「そうですか。じゃあ何か書いてみてください」
そう突っ込まれてうっとなる。竜崎の目の前で書くなんてとても出来ない。
本当は愛してるとかLOVEだとか書きたいところなんだけれど。そんな恥ずかしい現場を見られるのは悔しかった。
「じゃ、じゃあ、僕の理想を書く!」
そう言って、どろどろと流れ出るケチャップと格闘しながら文字を書いた。
――――正義。と。
……僕は馬鹿だ……。しかも画数が多すぎてケチャップまみれで、なんとかいたか解らないほどだ。
竜崎は半分笑って半分呆れ顔で、
「なるほど。月くんらしいですね」
くすくすと笑う竜崎に、なんだか馬鹿にされているようで悔しかった。
でも、竜崎の前で愛のメッセージをしたためるほど、僕には勇気がまだ無いんだ。勿論もうセックスは何度もしてる。でも今までは流れで……なんて雰囲気だったから、まさかヤらせて?なんて書くわけにも行かない。いつかやってやる。やってやる。と思いつつ、今日の昼食は恙無く終了した。
竜崎は満足顔で、
「また明日もオムライスがいいです、卵はうんと甘くしてくださいね?」
なんて言いやがった。
「わかったよ」
王子様の笑顔をなんとなく引き攣らせて、明日こそ、と僕はテーブルの下で拳を握った。

翌日もオムライス。毎日毎日飽きない事だ。
まぁ竜崎は一つのことに固執するタイプみたいだからハマったら延々それを食べたりするのは癖なんだろうけども。
今日の竜崎は何も言ってこなかった。
僕はチャンス!とばかりに必死で文字を考え……考え……考えぬいて。
「好きだ」
としたためた。
ああ、これが僕の出せる勇気の精一杯。
どんな顔をされるんだろう、ドキドキしながらつっけんどんに竜崎の前にコトリと置く。
竜崎はオムライスを見て目を見開き、それから僕を見つめ、またオムライスを見た。
「し、仕方ないだろ。本当なんだから」
何か言われる前に言い訳をしてみた。
すると竜崎はもう一度僕を見つめて、頬にちゅっとキスをしてきた。
「だから月くんって……好きです」
そんな事を言って頬を染める竜崎が可愛くて、でもなんだか流されるのも格好悪いと思ってクールな態度を崩さない様に必死で努力した。だって竜崎の頬が、耳が、ほんのりと赤く染まっていたのだから。
ああ、ダメだ。今夜はもう我慢出来そうに無い。どうやって持ち込もうかな。何度も何度もしているけれど、でもやっぱり雰囲気に助けられてっていうのが今までの流れだったから。いきなり襲い掛かるのも紳士じゃないよな……。このままそういう雰囲気にもっていけないものかな。などと僕は思案した。竜崎がその気になってくれればいいんだけど。


なのに、あんまり竜崎が可愛らしくて、その夜は手が出せなかった。情けない。だって付き合い始めたばかりなんだから仕方ないだろう?
「らいとくん」
と少し舌足らずな感じで腕にするっと潜り込んで、すうすう寝息を立て始める。そんな竜崎をたたき起こして「セックスしよう!」なんて言えるほど僕は竜崎に対して勇気がないんだ。臆病だと笑ってくれ。
キスして、弄り合って、それでなんとなく至る。そんなセックスしか、まだ僕たちは経験していなかったのだから。
静かに僕の下で悶える竜崎の顔を思い出す。可愛らしい反応に股間が熱くなる。
ああ、でもなんで今日は手が出せないんだ。もう僕は我慢の限界だというのに。

翌日も、その翌日もオムライス。なんでこんなにこいつは好きなんだろう。
一度本音を書いてしまったら急に楽になって、毎日毎日ケチャップで好きだと書いた。平気な顔して。段々慣れてきて、クールな僕を演出出来るようになってきた。
竜崎は相変わらずオムライスを見て、僕を見て、それからオムライスにとりかかる。毎度毎度美味しそうに食べてくれる。それを微笑んで見つめるのが楽しかった。

あんまりオムライスが続くから、なんとなく気になって聞いてみたくなった。
「竜崎、毎日で飽きないの?」
「……飽きません」
「なんで?」
「それは、その」
らしくもなく口ごもる竜崎。余計気になってずいっと乗り出して目を合わせる。
ふいっと横を向かれた。その頬が少しだけ赤くなっている。ああ、可愛いなと思う。
「ねえ、なんでだよ」
もう一度聞いた僕に対し、竜崎はもごもごしながら
「メッセージ……」
と呟いた。
「毎日メッセージ、嬉しいんです」
赤面しながらそんなことを言われて、僕のハートに矢が刺さってしまう。きゅんとする。まさにそんな感じ。
ああ、だめだ。今日こそ我慢出来ない。
僕はオムライスを食べ終わるその時を見計らい、彼を抱え上げて寝室へ向かった。


「な、なにするんです」
動揺が丸わかりだ。けど今は逃がしてやるつもりなんてさらさら無かった。こんなにかわいい姿を見せられて頂かない馬鹿はやはり居ない。
恋人がもじもじしながら頬を染め、僕からの愛の告白見たさのためにオムライスを食べ続ける。いじらしいじゃないか。これはもう今後のためにもちゃんと言葉で伝えなきゃだめだ。
「なにって……抱くんだけど」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
「待たない」
いつもは優しく優しくしてあげているつもりだったけれど、今日は歯止めが効か無さそうだった。
竜崎の衣服を引っぺがす。少しだけ胸元に付いているケチャップの跡さえ愛おしい。
竜崎のまだ兆していない下半身に、勃起した僕のをなすりつける。
「んっ……」
と小さく声が上がるのが堪らない。もうどうにも出来ない位凶暴な気持ちになって、竜崎のを口に含んだ。
「ぁ!ああっ!」
裏返ったような甲高い声で竜崎が喘ぐ。ああ、堪らない。僕がしてやってることに、いちいち反応を返す、そんな敏感な竜崎に物凄く欲情した。
「ら、いとく……っ……だめ、だめっ」
いやいやしながら僕の頭を抱え込む。やめて欲しいのかやめて欲しくないのか。竜崎は快楽には物凄く弱い。すぐにとろとろに溶かされて、ぐずぐずにベッドのシーツに沈んでいく。
撓むシーツに溺れる竜崎はまた格別だった。
「抱くよ、いい?」
もうこんなにしてるのに、あえて了承を得る。
竜崎は顔を真っ赤にしながらこくこくと頷いた。涙目になっている様がまたそそられる。
「竜崎……竜崎」
耳元で囁いて耳朶を甘咬みする。ひゃと声を上げて肩を竦ませる。続いて首筋の弱いところを舐め上げる。何度もくちづけして、ぢゅっと跡をつける。竜崎はのけぞって感じている。全く、素晴らしく感度のいい身体だ。こんなになるなんて知らなかった。
感じ始めてすぐにぷつんと勃ち上がった乳首を舐め転がし、空いた右手でくりくりといじってやるとそれはもうあられもない声で啼きまくった。
「や、やぁん、らいとく……!らいとくん、そこ、だめ、だめ」
ふるふると頭を振って喉をのけぞらせて感じている。これだけの刺激で、竜崎のは反応して勃起していた。どころか、先端から濁った露までこぼしている。
「お前、いやらしいね」
ふふっと笑えば涙目で頬を赤く染める。ああ、早く入りたい。もう我慢も限界だ。
「解すよ」
言い様につぷっと指を中に挿入する。一本、二本と増やしていけば、感度のいい身体はあっという間にとろとろと液が滲んでくる。それだけでは流石に辛いのはわかっていたので、いつもの場所からローションを取り出して温めてから後孔に塗りたくってやる。
「あ、ぁ、らいとくん、早く」
とろとろに溶け始めた竜崎は理性なんて簡単に吹っ飛ばす。後から死ぬほど恥ずかしがるのに、行為の最中は淫らな言葉を連発するのだ。
「もう、いい?」
また耳元で囁く。こいつは耳が特に弱い。びくっと肩を竦め、またこくこくと頷いた。
「は、はやく……」
竜崎はもう我慢の限界みたいで、自分で自分のを愛撫しようと手をのばす。それを払いのけて、膝裏を抱え上げる。身体を間に滑り込ませ、ぴたっと後孔に押し付ければくぱくぱと吸い付いてくる。
僕も我慢できなくて、一気に奥まで突き込んだ。
「は、あう……っ!あああっ!」
背を撓らせて僕の肩を掴む。がりっと爪がたったけれど、それもセックスのスパイスにしかならない。こんなに感じている。感じまくっている。こんなに反応するなんて……。興奮して僕のも一気に膨れ上がる。
奥まで挿れると、きゅうきゅうと締め付けて来る。奥に奥にと蠕動するのがこいつの身体のいやらしさを物語っている。
だめだ……もう。
「動くよ……」
まだ馴染みきっていない場所に、かなりの早さでピストンする。
「あっ!あっ!あああっ!ら、いと……ぉ!」
爪がきりきりと食い込む。後で見たらきっと血が滲んでいるだろう。
どんどんと加速させると自ら腰を振って竜崎は完全にセックスに没頭し始める。
竜崎のリズムに合わせて、奥を抉る。突く。嬲る。
「ひぁ!あああん!も、あああ!」
ぴゅくぴゅくと竜崎の先端から白っぽい先走りが漏れ始めている。反り返ったそれに手を這わせぎゅうっと握ってやると、身悶えてよがり狂い始める。
「ああ、最高、お前……っ」
僕も搾り取られる感覚に恍惚となる。
二人で刻んで、リズムにまかせて、突いて、抉って、いいところを攻めまくって。
「ぁ、竜崎……イく、よ」
「ら、らいとく……わたし、も……っ!」
びくびくと腹筋が震え始める。我慢できないのか背をぎゅうと丸めて僕にしがみつく。
その体を抱きしめて、二人同時に飛沫かせた。
「っく……ぁ」
「あああ、あ、あ……」
はぁはぁと息を吐きながら、その場に二人で倒れこむ。
これから何度だってできるけど、今日はなんとなくこのまま眠ってしまいたかった。シャワーは起きた時に浴びせて、全身くまなく洗ってやるんだ。なんだって僕はこんなに急に竜崎を抱きたくなったのか。……それは言わずもがなだけど。
ああ、ちょっとは優しい僕が戻ってきたかな。







翌朝、眠い目を擦りながらベッドから起き上がると竜崎の姿が無かった。
慌てて服をひっかけると、バタバタとリビングに探しに行った。
すると驚いた事に竜崎がキッチンに立っている。
「ああ、月くん。お寝坊ですね」
ふふ、と笑いながらこちらを振り返る。
「……お前料理なんか出来るの?」
「月くんのをずっと見ていて、一品だけ覚えました」
「そう……」
ちょっと驚いたけれど、そもそも器用なやつだ。これくらいのことは見ていれば覚えられるのだろう。それはそうか。こいつの頭脳は恐ろしくよく出来ている。
「座って待っていて下さい」
こちらを振り返る事もなくそう言われ、大人しくダイニングテーブルの椅子にかける。
しばらく待っていると竜崎が皿を持って現れた。
「さあ、できましたよ」
コトリ、と置かれた更には僕がいつも作っていたオムライス。
ケチャップでハート型が描かれていた。
「あの、月くん。大好きです……」
照れくさそうに微笑む竜崎に、なんだか感激して、僕はスプーン片手に竜崎の唇にちゅっと優しくキスをした。
……卵は甘かったけれど、最高のご馳走だ。







end