ミサにお任せ!3

※無料配布本の再録です。



月はまたぐっすり眠っている。
最近夜の方に関してはすっかり満足している。散々変なことをしてきた(妙な下着でアピールしたり、玩具を使って誘惑したり)お詫びに、なにかささやかな物で月を喜ばせる事は出来ないかと考えた。……が、高級なプレゼントならいくらでも思いつくのにささやかで月が喜ぶようなものがさっぱり浮かばない。
こういう時はやはりミサに相談するのが一番だと踏んで、女友達、というポジションにすっかりなってしまったミサをまた呼び出すことにした。
ミサはほいほい相談に乗ってくれた。
「なになに!またミサの出番ってわけ?」
やはり恋愛事になるとミサの目は輝く。
「ええと、いつもの彼女に関してなんですが……」
そう告げるとミサはにんまりして
「最近どうなの?上手く行ってる?」
なんて聞いてきた。
「はい。ミサさんのお陰でとてもうまく行っています」
ミサにそう言ったらめくるめく色々を思い出してしまって頬が染まる。
「竜崎さんかわいーい!そんな顔するんだ」
顔に出てしまった。ミサは目敏い。
「あの、あのですね。それで、彼女がちょっと喜ぶ何かをしてあげたいんですが」
「ふむふむなるほどー」
ミサは暫く考えてから、
「竜崎さんならお金持ちなんだからいくらでもプレゼント出来るんじゃない?」
と言った。確かにそうなんだが、それでは意味が無い。
「それも考えたんです。でも金が余っている人間が何かプレゼントしたからって心がこもっているって感じがしないでしょう?私が出来る範囲で……なにかしてあげたいんです」
私の言葉になるほど、と頷くミサ。
「じゃあじゃあさ、手作りの何かを作ってあげるってのはどう?」
「手作り……ですか。私あんまり得意では……」
「彼氏が料理、なんて滅多にしてくれないなら余計に嬉しいもんだよ!」
なるほど、その手があったか。
「あの、でも初心者でもできる料理なんてあるでしょうか」
私は心配になる。
「手作りお菓子……はちょっと難しいから、無難にカレーとかどうかな。あれならパッケージに作り方書いてあるし」
カレーか。それなら辛党の彼の口にも合うだろう。
「カレー……ですね。それはいいかもしれません」
「ご飯作れる男子なんて女の子的にはポイント高いよー?」
うふふ、と笑うミサはこういう時とても頼もしく、可愛らしい。
「それ、やってみます」
私はぺこりとお辞儀をして
「また報告待ってるから!」
と、部屋に戻るミサを見送った。

カレー……カレーか。
まずは無難な市販のルーで作ってみるのがいいかもしれない。しかし食卓に並ぶとなると、一緒に食べられるものがいいのではないだろうか?
私はワタリに「市販のカレーを食べてみたいのだが……ルーと材料を調達してくれないか」とお願いした。
届いたものは一般的なメーカーのメジャーなカレールーだ。
もともと器用な私の事。料理に挑戦したことはないが、きっと上手く出来るだろう。
それでもじゃがいもの皮むきなんかに四苦八苦してどうにかカレーをこさえることができた。月はどういうだろう。

「……これ、竜崎が作ったの?」
食卓に並べたカレーに、月は目を丸くしている。驚いてくれた。上々の反応だ。
一緒に食べられるように少しばかり工夫をした。
頂きます、と嬉しそうに月がカレーを一口くちに運ぶ。……と。
「……すっごく嬉しいんだけど……すっごく甘い」
と苦笑いされてしまった。
「あのあの!私も食べられるようにと甘口のルーを使ったんです」
「うん、それはわかるよ。でも……何か入れただろ」
なおも苦笑する月。
口に合わなかったということか。
「パッケージにリンゴとはちみつの絵が書いてあったんです。だからそれを入れれば美味しくなるのかと思って……」
もごもごと言い訳する。
「ああ、あのカレーか」
「すみません……余計でしたか?」
「あれはルーの中にもう仕込んであるものだよ。付け加えるものじゃないんじゃないかな」
月はまた一口くちに運ぶ。
「あのっ!無理して食べなくていいです!もっと美味しいの、絶対作りますから」
月の口に合わないのなら作っても意味が無いのだ。
「え?勿体無いよ。折角竜崎の初手料理なんだろ?ちゃんと最後までいただくよ」
食べつつ顔を引き攣らせる月は結局完食してくれた。なんて優しいんだろう。感激してしまった。
けれどやはり美味しいものを食べさせたい。私にしか出来ない、とっておきのカレーを。この際自分と一緒に食べるということは抜きだ。月があっと言うようなカレーを絶対に作ろうと思った。


「どうだった?カレー作戦!」
ミサにしょんぼりと経過を告げる。
「私も食べられるようにと……甘くしすぎてしまったようです」
「えっ、竜崎さんの舌って激アマ仕様だよね……それはちょっと……」
ミサまで苦笑いしている。そうか、そんなに私は甘い物仕様なのか、と反省した。
「それで、ですね。料理のコツは掴んだんです。難しいものも作れるような気がしてきました。私にしか作れない、スペシャルなカレーを作ってあげたいんです」
意気込みを伝えると、ミサはお得意の携帯電話を取り出して何やら検索を始める。
「じゃあ、さ。難しいものも作れるんなら……こういうのはどう?」
そこには自分で作るカレー粉のレシピ、と書いてあった。
「カレーっていろんな香辛料で出来てるんだって。それを自分なりに調合すれば、竜崎さんだけのスペシャルカレー、作れるんじゃない?」
それは名案だった。ゼロからあれこれ吟味して調合を重ねる時間は流石に無い。
「ネットにならいっぱい情報転がってるよ!」
ワタリに相談して、ワタリオリジナルのカレーを伝授してもらうのがいいのではないか。そこにちょっとだけ工夫をして……。なんだか出来そうだ。
「はい、ありがとうございます。やってみます」
「頑張ってね!」
ミサは意気揚々と部屋に戻っていった。

早速ワタリに相談だ。
「スペシャルカレーの作り方でございますか……確かに竜崎なら可能でしょう。少々難しいですが……しかしワタリにお任せください!竜崎スペシャルカレーのお手伝いをさせていただきます」
と、ワタリの部屋で特訓することになった。
まずはスパイスの調合だ。何十種類もの香辛料を配合してカレー粉を作る。材料は全てワタリが用意してくれた。ああでもない、こうでもない、と繰り返し、やっとそれらしいものが出来上がる。カレー粉がオリジナルなのだから、これを使ったカレーは私のオリジナルと言える。
一回作ったものの分量は一回で記憶できる私の脳があるので、今後作ろうと思えばいくらでも作れる。
それを使って欧風カレーを作ることにした。赤ワインやフォンドボーなどを使って本格的なカレーを作った。
完璧な私オリジナルだ。辛くて私には食べられそうもなかったけれど、少し味見をしたところ市販のカレールーで作るものよりずっとコクがあって美味しいと感じられた。実は甘い物ばかり食べている私だが、頑張れば普通の食事もできるのだ。
美味しく感じるのは甘い物に限るけれど、月と並んで食べられるのならなんだって美味しいに決まっているのだ。

「あの、月くん。リベンジしたのですが……」
どきどきしながら食卓に力作を並べる。月は先日の甘いカレーを思い出して幾分警戒した顔をしたけれど、これは甘くない、ちゃんと辛いカレーだ。
「カレー粉からちゃんと作りました。私のオリジナルカレーなんです」
頑張ったことをアピールすると、彼はいたく感激してくれた。
「僕のために頑張ってくれたんだ?カレー粉から作るなんて大変だっただろ」
月は私の頭を撫でてくれる。それだけで満足だった。
「日頃の感謝のお礼です」
「じゃあ、いただこうかな」
月は早速スプーンを取ると、一口くちに入れる。そこには驚愕の顔があった。……やはり失敗だろうか……。急に不安になった私に
「凄い!凄い美味しいよ!今まで食べてきたカレーの中で一番美味しい。いや、ダントツに美味しい!凄いよ竜崎」
と感激も露わにあっという間に皿を空にしてくれた。
「あの……おかわりある?」
「もちろんです」
私は嬉しくなって二杯目をよそう。それもあっというまに平らげてくれた。
「こんなカレーだったら毎日でも食べたいな」
ふふ、と笑う月が眩しい。……けれど、毎日作るには時間がかかりすぎる。困ったな、と思ったら、
「わかってる。すっごく時間かかったろ?これで十分だよ。ありがとう竜崎」
そう言って私にキスしてくれた。
私は凄く満足して、もっともっととキスをねだる。
沢山キスをして盛り上がってベッドに雪崩れ込む。
作って本当に良かった。

カレーもカレー味のキスも物凄く辛かったけれど……。

今回の作戦も成功だ。ミサとワタリに感謝しつつ、ベッドで幸せに浸る私であった。






end