夢の世界へ
※2014年スパコミペーパーです。





風薫る五月。
僕はデートらしいことがしたい、という希望を押し通し、竜崎を大型テーマパークに連れてきた。行ったことがないと竜崎が言ったので僕は張り切っていた。夢の国とも称されるこの場所で竜崎にうんと甘い夢を見せてやろう、と。
入場券は予め買ってあったのでチケット売場に並ぶ必要はない。混雑必至の場所だけれど、楽しんでくれればいいなと思いつつ門をくぐった。
「げぇ、凄い人混みです」
まず最初の言葉はそれだった。
「げぇって言うなよ」
がっくりする。なんとも竜崎らしいけれど。
確かに凄い人混みだ。ピーク時は7万人を超える人が入場するとのことで、普段ホテルのスイートでのんびりしている竜崎にはとんでもない人混みなのだろう。
「夏休みは暑いし春休みは寒いって文句言ったろ?GWくらいしか無かったんだよ」
「だからってこの人混みは無いです」
入ってすぐにげっそりした竜崎がぶうぶうと文句を垂れている。
「文句言うな」
一蹴すると、
「一日貸し切れば良かった」
なんてとんでもない事を言ってくる。流石の竜崎も一日貸し切りは出来ないだろう。夜だけなら貸し切りも出来るみたいだけど、そんなの待ってたらいつになるか分からないじゃないか。大体こいつの浪費癖(に僕には見える)はどうにかならないものか。
「ばか、そんな事に無駄金使うな」
「月くんは庶民ですね」
「うるさいよ」
言ってくれる。僕だっていつか竜崎に匹敵するくらい金持ちに……は、なれないか。残念だ。
ぶうぶう言う竜崎を黙らせて、人気のアトラクションに並ぶ。ここでも二時間待ちだったから竜崎が信じられないと文句を言った。
折角のデートなんだから文句言わないで楽しんでくれないかな。
順番が来たのでシートに座る。あめ玉を舐め出した竜崎がキョロキョロしているのをぼうっと見ていたら、目の前にゾンビが飛び出した。
「うわぁっ」
不意打ちだ。何も考えていなかった。竜崎と一緒に居るとこういうことがしばしばある。
「驚いたんですか月くん」
楽しそうに竜崎が聞いてくる。
「僕は驚いてなんていない」
「驚いたんでしょう?」
「うるさいな」
こういう事にならないと目を輝かせないなんて厄介なやつだ。悔しいからお前に見惚れてた、なんて死んでも言うものか。
どれもこれも長蛇の列だった。けれど乗ってみれば楽しかった。後半は文句を言わなくなって、並んでいる時間を有効に使おうとか言って小難しい話をしてきた。それでこそ竜崎だ。僕は嬉々として話に乗った。
乗れたアトラクションはたったの5つだった。あっという間に夜になってしまった。
「楽しかったです。特にキャラメルポップコーンが」
「ポップコーンはアトラクションじゃないだろ」
苦笑すると竜崎も笑う。可愛いな、と思った。
「もう帰ります?遅いですし」
時計を見たら七時だった。
「まだパレードと花火があるよ」
そう言って手を取って人混みを縫う。よく見えそうな場所をキープして、竜崎がパレードを楽しむ様を眺めていた。
僕はアトラクションより、こうやって楽しそうにしている竜崎が見たかっただけなんだ。最初はぶーたれていた竜崎も子供みたいに目を輝かせている。こんな顔が見られたなら僕は満足だ。
「綺麗ですね」
「うん、綺麗だね」
微笑むと、
「月くんが、ですよ」
そんなことを言って、大衆の面前でキスされた。
目を白黒させていると、竜崎がちょっと照れた顔で
「今日のお礼です」
そう言った。
どうやら夢の国に連れて来られたのは、僕の方だったみたいだ。





end