スイートスノー
※2014年春コミペーパーです。
季節外れの雪が振った。
かなりの大雪で、パウダースノーが辺り一面を覆い尽くした。
こうなると都心の交通機関は麻痺する。
あっという間に物資が届かなくなり、様々な店が材料不足で閉店を余儀なくされた。
そんな雪の中、僕たちはLビルに閉じ込められている。
竜崎と二人きり。いや、きっとどこかの部屋にワタリさんも居るのだろう。けれど彼は普段姿を見せないので二人きりも同然だった。
竜崎が
「月くん、ヘリポートで遊びませんか?」
そんな事を急に言い出す。
「……なんだってこんな寒い中……」
僕は竜崎の思いつきにいささか呆れて、面倒そうな口調でそう答えた。
「だってすることもないでしょう?ここで二人きりだし……折角の都心の雪です。遊ばないと面白くありません」
「遊ぶって降雪量じゃないだろ……」
「だから遊ぶんです。かまくら作ったり、雪合戦したりして遊びましょう」
冗談じゃない、と内心思ったけれど、竜崎の目があまりにキラキラしていたので無碍に断るわけも行かなくなった。だって竜崎の望みを叶えるのが僕の仕事なんだから。
「わかったよ、いいよ。その代わりきちんと暖かくすること」
「解りました」
にこりと喜ぶ竜崎が可愛い。
ヘリポートに出てみれば、それはそれはすごい量の雪だった。五十センチは下らない。
ドアを開けるのに苦心して、ようやく出た世界は真っ白だった。まさにトンネルを抜ければ……という感じだ。
「ここでかまくらするの?」
「そうです。まずはスノーマンです」
そう言って雪だるまを拵えだした。
彼の故郷はイギリスだとか前に言っていた。とは言っても五年程だと言うけれど。彼にしては長い滞在だったのだろう。
三段のスノーマンは、二段が普通の日本人の僕にはなんだか目新しく感じた。
しかしここはヘリポート、目も鼻も口も、腕だって付けられやしない。竜崎はそれでも満足そうだった。
その次は雪合戦だった。
竜崎は容赦無い。それは僕も同じだったけれど、二人で雪まみれになってぐしょぐしょになるまで遊んだ。おかげで身体は温まったけれど、汗が冷えてこの上なく寒い。全くどうしてくれるんだ。
続いてかまくらを掘るんだと言い出す。
「かまくらの中は暖かいと聞きます。一緒に大きなのを作って中でチョコレートフォンデュしましょう」
「……僕は鍋の方がいいけど」
受け応えながらも竜崎の望むようにかまくらを拵える。
男二人で作ったものだ。結構時間はかかったけれど、なかなか立派なものが出来た。これでまた結構身体が暖かくなる。
中に入って足を伸ばす。尻が冷たかったけれど、風が無い分確かに暖かく感じた。
「ワタリにチョコレートフォンデュの材料を言いつけてあります。まもなく来ますよ」
ウキウキと嬉しそうな顔をする竜崎。
本当に時間もかからず、ワタリさんが器いっぱいのフルーツと、チョコレートフォンデュの材料を携え現れた。
ちゃっちゃと準備を終えて、中は蝋燭の明かりが灯る、なんとも神秘的な空間になった。
竜崎の白い頬が、オレンジ色の明かりでふわふわと照らされる。美しい、と思った。
苺を嬉々としてチョコレートに沈めている。
そんな竜崎の頬があまりに魅力的だったから……。
ゆらゆら灯る蝋燭の明かりの中、僕は苺で膨らんだ頬に、軽く触れるだけのキスをした。
end