チョコとみかん
※2013年冬コミ配布ペーパーです。




大晦日、僕たちはこたつに入ってぬくぬくとテレビを見ていた。
年末の特番も色々あるんだけど、僕は実家の習慣でついつい紅白歌合戦なんかをつけていた。当然竜崎より可愛い子なんて出てくるはずもなく、僕はああ眠いな、なんて思っていた。
竜崎がいったん席を立って、大きな箱と筒状の物を持ってくる。
「なにそれ」
「これはですね」
どさ、と僕の隣に箱を置いて、竜崎はいそいそとこたつに戻る。
「明けてみてください」
「何?…………みかん?」
「そうです、みかんです」
にっこりと答える竜崎だったが、数が尋常じゃ無かった。
百個以上はあるんじゃないか?
「……で、そっちは?」
筒状の物が気になって聞く。竜崎は筒をポンと開けるとこたつの上にバラバラと中身をばらまいた。
「……マーブルチョコ……」
「正解です」
またにっこりする竜崎はやっぱり可愛い。けれど何を考えているんだかさっぱり解らなかった。
「で、それどうするの?ばらまいちゃって」
「数えるんです」
「なんで」
「百八個にしなくてはなりません」
「百八個?」
真面目そうな顔でこっくりと頷く。
百八個にしてどうしたいというのだ。除夜の鐘でもあるまいし……。
「除夜のチョコです」
「……はぁ?」
「月くんは除夜のみかんです」
「はぁあ?」
ますます意味が解らない。
竜崎は真面目くさって、
「私はチョコレートで、月くんはみかんで煩悩を祓います」
更に斜め上な答えを返してきた。
「いやいやいやいや、チョコとみかんって訳解かんないから」
思わずツッコんでしまった。
「さあ、除夜の鐘と共にひとつずつですよ」
「いやいやいやいや」
ないわ、と竜崎にがっくりする。
「大体竜崎は小さいチョコレートだから可能かもしれないけどさ……みかん百八個って無理だろ、胃にはいらないだろ」
「……」
むうっと頬をふくらませる。
「さては私のチョコレートを狙っていますね?」
「狙ってない」
即答する。
「私のマーブルチョコはあげませんよ」
「要らないから」
「じゃあみかん食べて下さい」
なんて上目遣いに言ってもだめ、その顔に弱いって知ってるんだろうけれど、出来ることと出来ないことがある。
「丸ごとなんて無理」
「じゃあ房でなら食べてくれますか?食べてくれたら……お願い聞いてもいいです」
なんだと、今度は色仕掛け?!
「……なんでも聞いてくれるの……?」
「はい」
「……じゃあ房でなら……」
僕は欲に負けてうんと言ってしまった。
出来る、みかん十個ちょいなはずだ、僕なら出来る……!
僕は自分を鼓舞してみかんをさっさと剥きだした。早くしなくては除夜の鐘が鳴り始めてしまう。
テレビを消して二人で耳を澄ます。
遠くからゴーン……と聞こえてきたのに合わせて、竜崎はチョコを、僕はみかんの房をぽいっと口に放り込んだ。

「……む、無理……」
僕は六個目でばたっと床に倒れた。
そういえばしっかり年越しそばも食べていたのだった。これ以上は無理だ。
「軟弱ですね」
「軟弱とか言う問題じゃない」
むっとして言い返す。
「はぁ……それだから月くんは毎年煩悩まみれなんですよ」
「煩悩まみれで結構。とにかくみかんは食べられない」
きっぱり断る。誰が煩悩まみれだ。好き勝手言いやがって。
「せっかくみかんで煩悩落とししてさしあげようと思ったのに……」
「……僕の煩悩落としてどうするつもり……?」
「え?あ、ええと……」
笑顔で誤魔化しても無駄。
「じゃあ……せっかくだから、僕の煩悩に付き合ってもらおうか」
「ちょ、ちょっと待って下さい、みかん、みかんを……!」
「頂きます」
「みかん……!!!!」
そんなこんなで、僕らの年が暮れていった。




end