ハッピーハロウィン
※スパーク配布ペーパーです。





十月三十一日はハロウィンだ。
日本ではあまり取り沙汰されていなかったこの祭りも、何でもかんでも商品化する日本人の事、いつの間にかちゃっかり根付いていたりして。
ジャック・オ・ランタンを飾り、子供は仮装して友達の家にお菓子をもらいに回る。
日本では飾り付けくらいしかしないかもしれないけれど、友達同士でのお菓子やプレゼントの交換はしているみたいだ。

竜崎はイギリス育ち、ハロウィンはお菓子が貰える日と特別な意味を持っているようで、この日は本部でもトリック・オア・トリートを連発していた。
しかし竜崎の甘いもの好きがすっかり知れ渡った本部の事、皆ちゃんと小分けにして様々にお菓子を用意している。トリックのほうが怖い、というのが正直なところかもしれない。

僕も両手に余るほどのお菓子を用意している。
……にも拘わらず、僕のところには竜崎は一度もトリック・オア・トリートをしに来なかった。……どうして?
僕は意気込んで作ったお菓子の数々を持て余し、けれど竜崎の為にたくさん作った物だから誰にも渡したくなくて、デスクの一番大きな引き出しに、袋ごとお菓子を仕舞いこんだ。
「……はぁ……」
「月くん、どうしたんです?」
すでに両手いっぱいのお菓子を持っている竜崎。カボチャの帽子を被って可愛い事この上ない。こんな竜崎なら喜んで人目を忍んで給湯室ででもキスしたい僕だったが、一度もお菓子をもらいに来ない竜崎にちょっとがっかりして、竜崎が顔を覗きこんでくるのにもぼんやりと何でもないとしか答えられなかった。
「月くん?」
「いや、本当になんでもないよ。お菓子貰っておいで」
「……はあ」
ミサのところにまで行ってトリック・オア・トリートした竜崎に、僕は心底がっかりする。どうしてだろう。なんで僕のところには来てくれないんだ……。
意気消沈しながら僕は本部が解散するのを待った。

とっぷり陽が暮れて、時刻も二十二時過ぎた頃、漸く本部が解散する。
……と、竜崎が自分のデスクの一番大きい引き出しに、今日の戦利品をぽいぽい放り込んでいるのを目撃した。
――――あれ?
そういえば今日の竜崎は、もらったお菓子をひとつも口にしていなかった。珍しいこともあるものだ。明日からの戦力にするつもりかもしれないが、意外すぎて驚いた。
そして……

「月くん、今日私の誕生日なんです」

……と、衝撃的な言葉を告げた。
「え!?誕生日……?そんな重大なことなんで……」
何もかもトップシークレットな竜崎。誰にも言わないで、僕だけに告げてくれた。
「真偽の程は定かじゃありませんよ?」
ふふ、と嘘つきの唇がそんなことを宣う。でも僕には解った。本当の事だって。
「それで……なんですが、今日は月くんのお菓子しか食べたくないんです。私に下さいます?」
「も、もちろん!」
「では月くん、……お菓子くれても、悪戯しちゃうぞ?」
小悪魔の笑みを浮かべて僕の肩にしなだれかかる。つつ、と唇を人差し指でなぞられて、僕はどうしようもない感情に悶えた。
「お菓子あげても……悪戯しちゃうよ、竜崎」
「はい、楽しみです」
僕は引き出しの中からとても大きな袋を取り出す。竜崎に、
「お誕生日おめでとう。……と、ハッピーハロウィン」
手渡しながらキスする。竜崎は嬉しそうに、ありがとうございますと笑って、僕の唇をついばみ返した。




end