食欲の秋
※スパーク配布ペーパーです。
「なあ竜崎、甘栗食べる?」
「食べます」
僕の呼びかけに若干食い気味で即答する竜崎。甘いものに目がないこいつのこと、僕の持ってきた甘栗に目がキラキラと輝いた。昔ながらの赤い巾着に入った甘栗を差し出すと物珍しそうな顔をする。
「鬼皮付きですか。最近あんまり見ないですね」
「そうだね」
袋の中で小気味の良いからころという音がする。
竜崎は暫く弄んでいたけれど、捜査資料をほっぽり投げて早速皮むきに専念し始めた。これで暫く静かに仕事できるな、と思っていたら、ややして隣から唸り声が聞こえ出した。
「んー……んんーー」
振り向けば竜崎があの凶暴そうな歯で鬼皮にかじりついている。いくら好きだからって皮まで食べることないだろ。
……じゃなくて。
「……剥けないの?」
「剥けます」
また食い気味にいうが今度は負けず嫌いの発言だった。
「もしかして全部人任せだっただろ。剥いたことないんじゃない?」
そう聞いて齧りついてたひと粒をかっさらった。
「……正解です」
僕がぱかんと鬼皮と渋皮を剥いて差し出すと、悔しそうに認める。かわいいやつだ。
「どうしてそんなに簡単に剥けるんですか?」
「ん?ここの真ん中に爪で亀裂入れて、両サイドから押せば……ね?」
またひとつパカンと剥けた。
それに習って竜崎も栗の真ん中に亀裂を入れようと試みる。
……が、生憎竜崎は右手の親指を噛りすぎて爪の白い部分がほとんど無かった。
「ひびを入れられません……」
と、悔しそうにつぶやく。
「なんで皮付きなんですか。剥いてあるのいくらでも売ってるのに」
減らず口を叩く竜崎に
「だって秋だろ?秋なら栗だろ?栗らしい方がいいじゃないか」
僕も適当な事を言ってやった。
「面倒くさいじゃないですか……いちいち剥くの……手も汚れるし」
さっきまでかじりついてまで食べたがっていた奴が何を言うか。
僕は笑って、計画通りの言葉を囁く。
「剥いてやろうか?」
僕は残念ながら面倒見がいいのだ。生来のお兄ちゃん気質を発揮する。……というかこの場合別の目的があるんだけど。
「剥いてくれるんですか?」
「うん。いいよ。貸して」
僕は栗を一粒取って剥くと、竜崎に
「はい、あーん」
と言ってやった。竜崎は咄嗟に頬を赤らめたが、文句をもごもごと口の中に閉じ込めて(剥いてもらっているんだから仕方ない)
「あーん」
と大きく口を空けた。
暫くもぐもぐして、
「美味しいですね、甘栗。流石栗は秋の味覚です」
「まあ年中売ってるけどね」
全くゲンキンな奴だ。
「もう一つ下さい」
「いいよ。あーん」
「あーん……」
これが僕の目的。
僕は皮付きの方を買ってきて本当に良かったと心底思いつつ、竜崎の口にまたあーんと一粒放り込んでやった。
end