夏の花
※2012年夏コミ配布ペーパー




「月くん花火を見にいきましょう」
竜崎がまた唐突にそんなことを言い出した。こいつは唐突なことが多いけれど今回もまた唐突で、僕は思わず
「今日花火大会なんてどこでもやってないけど」
とつまらない切り返しをしてしまった。
もしかしたら探せば夏だからどこかしらでやっているかもしれないけれど、大きい大会は既にだいたい終わっている。最近もローカルテレビで近場の花火大会の様子が流れていて、竜崎が口をぽかっと開けて見入っていたのが記憶に新しい。
ああ、だから実際に見たくなったのかな?と僕は思ったけれど、テレビで見るような大規模な花火大会はさすがに今日はやっていないはずだ。
「大丈夫です、出かける準備はできています。きっと大輪の花が見られますよ」
珍しくにこにこしてそんなことを言うので、また何か企んでいるんだろうけど笑顔にほだされていいよといってしまった。

いいよ、と言った手前こんな事を言うのはなんだけれど、どうして僕は今ワタリさん操縦するヘリに乗っているのだろうか……。
小一時間もヘリで飛ばされ、なにやら人の居なさそうな小島までやってきてしまった。こんなところで花火大会なんてある訳ない……とすると。
「竜崎……金の無駄遣いはやめろって言ったよな」
「無駄遣いじゃありません。必要経費です」
ヘリが着陸すると同時にぴょんと身軽に飛び出されて、鎖で繋がっている僕は思わずこけそうになる。どうにか転ばないで砂浜に着地すると、竜崎にひっぱられて小高い丘までやってきた。
驚くべき事に、そこには屋台が並んでいた。
「おい……お前な」
「花火と言えば屋台です」
心の中でご苦労様ですと唱えながら、屋台で金を払ってかき氷やいか焼きやたこ焼き、焼きそば、今日は目をつぶってもらって生ビールなんかを購入した。
きっと屋台の人たちはそっくり一日分以上の報酬でももらっているのだろう、気前よくおまけだよと色々つけてくれて、僕と竜崎の手はすぐに食べ物でいっぱいになった。

丘の拓けた所には、どう言うわけかテーブルと椅子が二脚置いてある。特等席だ。
「ここですよ」
と竜崎に案内されるまま席に座ると、竜崎がポケットから拳銃の様な物を出して空にぱんと打ち上げる。
銃ではなかったのかひゅるひゅると長く赤い明かりが空に延びると同時、眼前の広い砂浜からひょおっと火の粉があがり、空にどおんと大輪の花を咲かせた。
続いてぱんぱんと何度か聞こえたかと思うと連続して空に大きなまん丸な花が咲く。
それは見事な花火だった。
僕は最初呆然としたが、腹に響く打ち上げの心地よい音を聞いているうちに完全に花火大会モードになり、いか焼きとビールを楽しみながら空に上がる美しい花々にぼうっと見とれた。
「次はスターマインです。月くんに捧げます」
竜崎が急に僕の手をぎゅっと握る。
何十発もの花火が次々に打ち上げられ、そこかしこに三日月型の花火とハート型の花火が散らされていた。
月、ハート。らいと、愛してる。
そんなメッセージが聞こえてきそうで思わず赤面する。けれどどうしようもなく嬉しくてままよと竜崎の頬にキスをした。竜崎ははにかんだように笑って、綺麗でしょう?と自慢げに言った。
二時間もの大花火大会も終演に近づいてきている。
海の上のナイアガラを見ると、竜崎はそろそろですねとヘリに戻ろうと言い出した。
せっかくだから全部見ていきたい。花火はまだ続いている。
「大丈夫です花火はまだ見ます」
大急ぎでヘリに乗り込んで、窓の外を覗くと、ヘリは花火の上を旋回しだした。
と同時に特大のスターマイン。
上空からの花火もやっぱりまんまるで、僕は感慨深く海に溶ける花火を眺めていた。
「ご満足いただけました?」
悪戯っぽく笑う竜崎にキスでありがとうを伝える。こんなに素晴らしい花火大会は一生に一度きりかもしれない。
「一緒に見たかったんです。本物の花火」
照れ笑う竜崎を可愛らしいと思いながら、
「で、今回の費用は?」
「それは秘密です」
僕らははるか上空の機体の中でけらけらと笑い合った。




end