虹蜜
※2012年夏コミ配布ペーパー
「今日はお祭りがあるんですってね」
午後も三時を過ぎた頃、竜崎が唐突にそんな事を言い出した。
「行きたいの?」
僕が聞くと
「いえ、ここから出るわけにはいきません。それに手錠もありますからね。月くんの監視も難しくなりますし」
とのたまった。だから僕はキラじゃないって言ってるだろう、という言葉は喉の奥にぐぐっと押し込んで、じゃあなんで竜崎がそんな事を言い出したのかと聞いてみた。
「わたあめ、リンゴ飴、チョコバナナにかき氷……お祭りではそんなスイーツがあるらしいじゃないですか……私食べてみたかったんです」
ああ、なるほどね。
「それなら松田さんに買ってきてもらえば?」
「今日松田は戻りません。それに今日は夕立が来るそうです。お祭りも大変なことになりますよ」
「……そっか」
それなら、と少し考えて、僕はワタリさんに連絡を取った。
1時間もしない内に頼んだものが揃えられた。さすがはLの右腕だ。
わたあめの機械にふわふわの氷が削れる氷かき、色とりどりのシロップ。ちゃちな紙製のカップにプラスティックのスプーンまで。氷はクーラーボックスにいれられて、どこまでも透き通った大きなブロックだ。固く締められた氷はさらさらのかき氷になるだろう。
よし、と腕まくりをして、手錠の先の竜崎を引っ張ってわたあめ機をセットする。
「この部分から綿になったのが出てくるからそれをこの棒でくるくる巻くんだよ」
「わかりました」
心なしか目がキラキラしだした竜崎に満足して、わたあめ機の電源を入れる。
高温とともに吹き出すわたあめに竜崎はちょっとだけ驚いて、それから嬉しそうに棒を突っ込んで舐め始めた。
その隙に僕は氷かきに向かう。昔ながらの機械はなかなかに重厚で氷はかなり重かった。上のレバーをくるくる回して氷をセットして、試しに少し削ってみる。
こちらもふわふわの氷が削れ出てくるので僕は俄然張り切った。
「竜崎、シロップは何がいい?いちごもブルーハワイもメロンもなんでもあるよ」
わたあめに集中していた竜崎が、僕がカップにこんもり盛ったかき氷を見るとそれこそ飛び跳ねそうなまでに喜んで、
「全部!全部がいいです!」
とむちゃくちゃなことを言う。
「おかわりすればいいだろ?とりあえず何食べるの」
「だから全部です!」
言い出したら聞かない子供のような口調で竜崎は全部のシロップをかけたいと言う。
「……仕方ないなぁ……」
僕は面倒だなぁと思いつつも竜崎の喜ぶ顔見たさに、かき氷をレインボーカラーに染めてやった。
綺麗な虹色のかき氷の出来上がりだ。
「月くん、素晴らしいです!」
満面の笑みを浮かべた竜崎にスプーンを渡す。竜崎は立て続けに三杯氷を平らげた。
これ以上食べたら腹を壊すなと思ったので四杯目のおかわりはお預けにした。
「もうダメ、冷えきって唇真っ赤だぞ」
「これはいちごシロップの色ですよ」
「だったら他の色も混ざるだろ」
「いちごですって」
言い合っていたら突然雷が鳴って夕立がやって来た。
音の大きさに驚いて二人で一瞬固まったけれど、すぐ顔を見合わせて、
「じゃぁ四杯目は我慢します」
竜崎は微笑んでそう言った。その真っ赤な唇にキスしたくなって顔を寄せる。
開かせた口の中からまだら模様の何とも言えない舌が覗いているがそんなのお構いなしだ。
絡めた舌は甘い夏の匂いのシロップ味だった。
夕立の後の大空にはきっと本物の、綺麗な虹がかかるだろう。
end