恋人のワイン





竜崎が
「せっかく少し勉強したんです。ワインを持ち寄りませんか」
と言いだした。
こういう事を言い出す時は大体勝負事になる。
どちらがより相手を驚かせられるか、という所だ。多分暇だったのだろう。
ふっかけられたら必ず買うのが礼儀だ。勿論僕たちの間ではだが。
そして当然全力を傾ける。実力が互角なら、手を抜いたほうが負けなのだ。
三日後の金曜日にと宣言されたので受けて立つ。
待ってろよ竜崎……!
僕はすぐに浮かんだあのワインを手配するべく、いそいそとパソコンに向かった。


そして金曜日。
向かい合って座ったテーブルの上には、これから出されるワインに相応しく、ワタリさんの心尽くしの洋食が並んでいる。
どれもとても美味しそうだ。
さぁ冷めないうちに、と竜崎が隠し持った袋をごそごそとやる。
「では私から」
にやりと笑ってから、ドーンとボトルをクロスに載せる。
白く威厳のあるエチケットが眩しい。
……こ、これは。
「グロフィエのレザムルーズ……」
流石L、学生相手でも手を抜かないとは。こんなの敵いっこない。何十万だよとつっこみたい。
というより嬉しくて顔がゆるむ。レザムルーズ、とはすなわち「恋人たち」だ。ああ、竜崎!
「さ、月くんのワインはなんです?」
「ええと……」
順番が来たが、竜崎のワインに圧された僕はおずおずと差し出す。
負けだ、決まってる。
僕にとっては大金だったけど、竜崎のワインとは桁が違う。なんだかなぁ、格の違いを思い知る。
ひょいと手を伸ばした竜崎は、僕の出したワインをしげしげと見つめ、
「……カロン・セギュールですか」
綺麗に描かれたハートのエチケットに呆然としている。
それから僕が後ろ手に持った大ぶりの花束とビロードの小箱に気付いたようで、一気に顔を真っ赤にした。
「あの……まさかとは思いますが、月くんそれ……」
「や、その、こっちはあの。なんて言うか、あはは!」
お恥ずかしながら大輪の薔薇と給料(と言ってもバイト代だけど)三カ月分のプラチナリングだ。
見つめられて観念して差し出すと、中を確認した竜崎が絶句した。
こうなったら自棄だ。竜崎のワインの前に霞もうが何しようが当たって砕けろ。
「りゅ、竜崎!」
「!は、はいっ」
びくーん、と竜崎の背筋が伸びる。
「結婚して下さいっ……!」
がばぁと頭を下げる。
そう、このワインは所謂プロポーズワイン。
ワインを齧った者なら割と早い段階で知る豆知識の一つだ。
初めてワインを選んだ日、僕も調べていたネットで知った。
僕の気持ちをたっぷりのせて、彼を驚かせたかった。
こういうベタベタなのって恥ずかしいけど、どうせならやってみたいと思うのが年頃だ。絶対竜崎に贈ろうと思った。
無言な彼を恐る恐るみやると、かちこちに固まった身体をぎくしゃくと動かしてフリーズから解放されつつあった。
華奢な指先を震わせて、気まずそうに定位置である唇に持っていく。
かぷ、と含むと漸くはぁぁと溜息を漏らした。
「……竜崎? あ、の、なんて言うか、お前の見ちゃうとちょっと格好付かないけどさ……」
「だって、貴方の気持ちなんでしょう?」
彼の問いにしっかり頷いて固唾を飲んで見守る。
「大切なのは金額じゃなくて気持ちです。……はー、解りました、……負けです」
と言って頬を染める。ぷい、とそっぽを向いて、
「……なんか悔しいです。予想できたのに」
私のワインより恥ずかしいなんて……頑張ったのに、と零した。僕は嬉しくなって破顔する。
「大体月くんの全財産と私の全財産に占める割合を考えると、
 お金の無い貴方が良くこのヴィンテージを買ったと感心しますよ……」
照れ隠しに、僕の気になる事をずばずば言ってのける小憎らしい唇には残念ながら届かない。
代わりにその白い指先を手に取りちゅうと押し付ける。
途端に赤くなって馬鹿、と漏らした彼のそれに、白銀の輪をそっと嵌めた。






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20111111 拍手御礼SS『恋人のワイン』 kina
おのろけ。




end